アトピー性皮膚炎の子どもをもつ母親として、保護者の不安を少しでも解消したい
大塚製薬では、正しい情報をわかりやすく伝えたいとの想いから、さまざまな病気についてのWebサイトを展開しています。今回は、アトピー性皮膚炎の情報サイト「アトピース」の運営を担当している岡本(オカモト)さんに話を聞きました。
【岡本さんのプロフィール】
大学では有機化学を学んだことから医薬品や化粧品に興味をもち、2010年に大塚製薬に入社。医療用医薬品の情報提供・収集を担うMR(医薬情報担当者)として総合領域・眼科皮膚科領域を担当。2021年にメディカル・アフェアーズ部へ異動し、現在はアトピー性皮膚炎の疾患啓発を担当している。
エビデンスに基づき、正しい情報をわかりやすく伝える仕事
―現在の業務について教えてください。
岡本:私が所属するメディカル・アフェアーズ(以下、MA)部の業務内容は主に2つありまして、1つは大塚製薬の医療用医薬品などの有効性・安全性を科学的に確認し、エビデンスを構築することです。そしてもう1つは、疾患について正しい情報を適切に発信していく疾患啓発です。私はアトピー性皮膚炎について、主に後者の疾患啓発を中心に担当しています。このような「メディカル活動を通じて世界の患者さんを笑顔にする」というビジョンのもと、活動しています。
―具体的にどんなことをしているのですか。
岡本:一般の方への疾患啓発として、「アトピース」を2022年に開設しました。特に子どものアトピー性皮膚炎について、エビデンスに基づいた正しい情報の発信に努めています。
また、社内向けには、社員を対象にアトピー性皮膚炎についてどれくらい正しい知識をもっているかを調査し、その結果を踏まえて社員に知識や理解をより深めてもらうためのセミナーを企画・実施したりしています。
―どうしてアトピー性皮膚炎の情報サイトを新たに作ったのですか。
岡本:SNSの普及もあり、現在、アトピー性皮膚炎に関する情報は世の中にたくさんある一方、『何が正しい情報かわからず困っている』という患者団体の声をお聞きしたことをきっかけに、製薬企業として医師監修のもと、正しい情報を発信する必要があると感じました。また、子どものアトピー性皮膚炎にフォーカスした情報サイトはあまり多くありません。最近の研究では、アトピー性皮膚炎の多くは赤ちゃんの頃に発症し、これが食物アレルギーなど他のアレルギー疾患にも関わっているとも言われています(※1)。赤ちゃんのときから適切にアトピー性皮膚炎の対処をすることは、その後のアレルギー疾患の対策を考える上でも、とても重要だと言えます。
しかしながら、アトピー性皮膚炎は医療機関の受診率が低いのが現状です(※2)。アトピー性皮膚炎を患うお子さんの保護者をはじめ、患者さんを取り巻くすべての方々に正しい情報を届け、受診につなげることを目的に、「アトピース」を開設しました。アトピー性皮膚炎の症状や治療方法、日常生活の工夫や、どんなタイミングで病院を受診すればいいのか等、適切な受診と治療につながるような内容にしています。
※1 Lack G: J Allergy Clin Immunol. 2008; 121(6): 1331-1336.
※2 足立雄一 ほか. 令和元年度厚生労働行政推進調査事業費補助金 アレルギー疾患対策に必要とれる大規模疫学調査に関する研究による「日本のアレルギー疾患はどう変わりつつあるのか」; 2020. P36.
病気について勉強して痛感した「もっと早く知りたかった」こと
―岡本さんとお子さんもアトピー性皮膚炎を患っていると聞きました。
岡本:実は、1人目の子どもがアトピー性皮膚炎を発症したとき、病院へ行くタイミングがわからず、様子を見てしまったことがありました。たまたま予防接種のときに、看護師さんが子どもの額の皮膚が荒れているのを見て、「お医者さんに診てもらった?」と聞いてくれたことがきっかけで、ようやく治療が必要ということに気づかされました。もともとアトピー性皮膚炎を患っていた私でさえこんな状況ですから、「もしかしたら、ほかにも同様の課題を抱えている方が世の中にいらっしゃるかもしれない」と思いました。この部署に来て、疾患に関していろいろ勉強して「もっと早く知りたかった」と痛感しました。
―どんなことを「もっと早く知りたかった」ですか。
岡本:まず、離乳食を遅らせても食物アレルギーの予防にはならない、ということです。私は、1人目の育児で離乳食を始めるときに食物アレルギーを心配して、なんとなく卵は不安だからと食べさせる時期を遅らせようと考えていました。でも最近では、卵などのアレルギーの原因となる食品を不必要に遅らせずに食べたほうが食物アレルギーの発症を抑えるという研究結果が出てきています(※3)。そして、食物アレルギー発症と密接に関係しているのは、実は皮膚だということです。皮膚のバリア機能を保つことが食物アレルギーを防ぐためには重要で、湿疹が出たときに赤ちゃんの肌をちゃんと治したうえで、適切な時期に離乳食を与えていくことが良いと知ったときは驚きました。
※3 Natsume, O., et al.: Lancet. 2017; 389(10066): 276-286.
―ご自身のその経験は、情報サイトをつくるうえでどのように役立っていますか。
岡本:ひとつは、アトピー性皮膚炎の特徴や治療に関するコンテンツを掲載するときです。伝え方にも工夫を凝らしていて、例えば、多くの方に見てもらえるようにコンテンツをマンガにしています。私がマンガ好きというのもありますが、こういう医療系の情報は、内容が難しくなりがちなので、文字だけで読むのは大変ではないかと思いました。その点、マンガなら隙間時間にさっと読めますし、登場人物に親しみを感じてもらいつつ、楽しみながら読んでもらえるかなと考えています。
もうひとつは、受診につながる仕組みづくりです。病院に連れていくことが大切とはいっても、子どもを連れて外出するのは大変なこともあります。また私自身もそうなのですが、“こんな症状で病院を受診していいのかな”と不安に思って、なかなか受診できないこともあります。
こうした経験から、自宅にいながらオンラインで医療相談ができればと思い、2023年から「小児科オンライン」というサービスとの提携を始めました。お子さんの湿疹やかゆみが気になったときに、小児科の医師にスマートフォンを使って無料で相談ができます。“病院に行こうかどうしようか”と悩んでいるときに、相談窓口として活用いただけると嬉しいです。実際に活用した方からは、「医師に相談できて安心しました」という声をいただき、導入してよかったと心底感じています。
―その結果2023年に、人気育児雑誌が選ぶ子育てトレンド「第16回 ペアレンティングアワード モノ・サービス部門」に選ばれたのですね。
岡本:はい、保護者の大きな関心ごとである子どものアレルギーについて、エビデンスに基づく正しい情報を発信し、医師への相談機会を提供していることを評価いただきました。私自身、アトピー性皮膚炎の子どもをもつ母親として、保護者の不安が少しでも解消されればと思い、「アトピース」の運営に携わってきました。今後も親としての目線を活かしつつ、製薬企業として正しい情報発信に努めていきたいと思っています。
ペアレンティングアワード:人気育児雑誌などが中心となり、毎年、その年に話題を集めた子育てにまつわるトレンド(ヒト・モノ・サービス・コト)を表彰することで、さらなる発展を促し、日本がもっと子育てしやすい国になることを目的に開催されている。
患者さんに最適な医療を届けて、医療のパラダイムシフトが起きる瞬間に立ち会いたい
―岡本さんの今後の目標について教えてください。
岡本: 「アトピース」の開設・運営などさまざまな取り組みを通じて、アトピー性皮膚炎で困っている患者さんやそのご家族がもっと快適に過ごせるようになるための一歩として病院を受診することにつながればと思います。ただ、受診するだけで終わりではないとも考えています。どの医療機関を受診してもアトピー性皮膚炎の適切な治療が受けられ、患者さんが肌も心も穏やかに過ごせるように、何かしらのかたちで貢献していきたいと思っています。
―壮大な目標ですね。
岡本: MA部のミッションは、「満たされない医療ニーズを解決し、患者さんに最適な医療を届ける」ことです。ここで重要なのは「自社製品を届ける」のではなく、「患者さんに最適な医療を届ける」という点です。医療環境全体を底上げし、健康に貢献していきたいという自分の目標と、このMA部のミッションは合致していると私は考えています。
MA部に異動する際、「MA部のやりがいって何ですか」と質問したことがあります。その時、ある方から「医療のパラダイムシフトの瞬間に立ち会えること」と言われました。そのとき私も「なんて壮大な活動なのだろう」と思ったのですが、取り組みを続けていく中で、あとから振り返って「ああ、あれがパラダイムシフトだったんだ」という経験ができればいいなと思っています。
編集部のつぶやき
日頃、岡本さんがどのような想いで「アトピース」を運営しているのか、その一端を垣間見たインタビューでした。母親として経験したことを大切にしながら、WEBサイトを通じて正しい情報を届けようと努めている姿勢がとても印象的でした。今後はどんなコンテンツを追加していくのか、楽しみにしています!