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日本からグローバルな感染症“結核”の課題解決に挑む

結核は、エイズ・マラリアと並び三大感染症と呼ばれており、紀元前から人々を脅かしてきました。大塚製薬では1971年から結核と向き合い、2014年に世界では約40年ぶりの新薬のひとつとなる結核治療薬を世に出しました。今回は3月24日の世界結核デーを前に、治療薬を世界に届けているプロジェクトのリーダー・川﨑(カワサキ)さんに話を聞きました。

【プロフィール】
1998年に入社、微生物研究所に配属される。2009年からアメリカの研究所に所属。2011年にアメリカで抗結核プロジェクトに携わり、2014年に帰国。現在は、同プロジェクトのグローバルプロジェクトリーダーを務める。


グローバルな公衆衛生の課題と向き合いたい


―川﨑さんは2011年から抗結核プロジェクトに携わっていますが、当時はどのような役割を担っていたのでしょうか

当時は、臨床試験に携わりながら、各国の患者さんに治療薬を届けるための体制を同僚たちと整えていました。現在は、構築した体制をベースに治療薬を世界各国に届けるための活動と共に、次の抗結核薬の臨床開発を行っています。

―治療薬を世界に届けるために行っていることを教えてください。

世界保健機関(WHO)の報告によると、2022年の世界の結核発症者は1060万人と推定されています。よりよい治療の機会をつくるためには、世界中の患者さんに治療薬を届けていくことが必要です。そのため、WHOやユニットエイド(UNITAID)、国境なき医師団、ストップ結核パートナーシップなどと連携しています。約40年ぶりに発売された治療薬は2015年5月にWHOの必須医薬品モデルリストに加えられ、これまでに127カ国で使用(2024年3月現在)されました。

―川﨑さんはアメリカの研究所にも所属され、現在のプロジェクトでもドイツなどでグローバルに活躍されていますが、もともと海外での仕事を希望していたのですか。

海外志向は、まったくなかったです・・・。自分の至らなさを感じることもありますが、たくさんの出会いや経験によって自分の世界が広がってきています。そして何よりご一緒する皆さんが真剣に結核という課題に向き合っていて、いつもその熱意に刺激をいただいています。

―海外で働くことで何か芽生えた想いはありましたか。

公衆衛生の課題を日本だけで終わらせないということです。国内だけで解決したら終わりという訳ではなく、他の国では公衆衛生はグローバルな課題のひとつとして取り組んでいます。だからこそ、日本からグローバルな課題である結核に向き合い続けたいです。

ドイツで同僚と打ち合わせ
イギリスで同僚とディスカッションをしている様子

自分のやっていることの意義を感じさせてくれた、アフリカでの経験


―海外と日本では、結核に対する意識が違いますよね。

世界で見ると結核は深刻な感染症ですが、日本ではピンと来ていない方が多いかと思います。日本は2021年に結核の「低まん延国」入りを果たしていますし、昔の病気というイメージもあるのかもしれません。

―海外で何か印象に残った出来事はありますか。

南アフリカを訪れた時に、現地の方から「結核の治療薬の開発に取り組んでいるなんて、あなたたちは本当に素晴らしいことをやっている」と言われました。それまでは日本で直接そのように言われたことがなかったので、求めてくれている人たちがいるのだと実感しました。

南アフリカで結核は非常に大きい問題で、結核で亡くなってしまう人がいることを目の当たりにする環境です。言葉をかけてくれた南アフリカの方は、遠い国の日本の製薬会社が取り組んでいることにとても感動していました。今でもあの時の彼の表情を思い出します。日本から14,000キロ離れた南アフリカで、初めて自分のやっていることの意義を強く感じた瞬間でした。

世界で必要とされているという気づきとこれから


―2021年9月には欧州で承認され、結核治療薬が小児患者さんも使えるようになりましたよね。

2021年9月にはWHOの必須医薬品モデルリストにも加えられ、すでに47カ国(2024年3月現在)で使用されています。毎年、世界中で2.5~3万人の子どもたちが多剤耐性結核を発症している(※)のですが、多剤耐性結核の治療は困難で、その中でも小児の治療はさらに難しいと言われています。


※ Access to Medicine Foundation report "Tuberculosis in Children: Underdiagnosed and Undertreated" (2020)

多剤耐性結核=結核菌は、結核の治療薬に対して抵抗性がついてしまい、薬が効かなくなってしまうこと(耐性化)があります。現在の結核治療の中で最も重要なイソニアジドとリファンピシンという2つの薬剤に対して同時に耐性となってしまうのが「多剤耐性結核」です。


―プロジェクトの活動で、これまでに印象に残っていることを教えてください。

2つの出来事があります。南アフリカで多剤耐性結核の治療に携わる国境なき医師団のグループから、治療に難航する小児の治療に対して治療薬の販売前に使用の希望がありました。私たちはそのようなケースに備えて特別な仕組みを作っていたので、タイムリーな提供ができました。後日、治療に携わった医師たちから心のこもった感謝のメールをもらったことは今でも忘れられません。

もうひとつは、タジキスタン人のお母さんの動画メッセージです。その方のお子さんが、治療の難しい多剤耐性結核に苦しんでいたところ、適切な治療を受けられたことで今ではサッカーもできるようになっていると。「その薬に出会えたことにとても感謝している」との話を聞けたことも、忘れられない思い出です。

―世界各地から感謝の言葉が届いているのですね。

「世界の患者さんに治療薬が届くように」と活動していても、貢献できているのかはフィードバックをもらってこそ知ることができます。この2つの出来事を通して、私たちの活動は世界で必要とされているということに改めて気づくことができました。

―最後に、今後成し遂げたいことを教えてください。

新たな治療薬を開発して、患者さんの治療の選択肢を増やしていきたいです。ありがたいことに、私は非常にモチベーションが高い仲間に囲まれて、今の仕事ができています。薬を通して患者さんの人生や生活を変えられるというところに私たちのプロジェクトの意義があると捉えています。世界中の結核患者さんの治療に貢献するために、これからも仲間とともに挑戦していきます。


編集部のつぶやき

川﨑さんは、“課題を先送りにしない”ということを大切にしているそうです。課題の先送りは何の解決にもなっていないと。誰かに次のバトンを渡す時のことを念頭に置いて、まずはその課題に自分が挑戦する。その姿に惹かれ、高い志を持った人たちが川﨑さんのところに自然と集まるのかもしれません。“世界の人々の健康に貢献する革新的な製品を創造する”という企業理念を体現する覚悟を感じたインタビューでした。